2021年3月18日に東京食肉市場にて第12回全国肉牛事業協同組合枝肉共励会(交雑種)が開催されました。全国より出品された87頭(雌32頭、去勢55頭)の中から見事グランドチャンピオンを受賞されました、「有限会社 宮島牧場」の畜産部門責任者である場長 木村 学 様に受賞の秘訣と今後の展望を伺いました。
インタビューは、東亜薬品工業株式会社東日本支店より、石井が担当いたしました(2021年7月29日に実施いたしました)。
◆農場の概要◆
有限会社 宮島牧場
茨城県かすみがうら市で宮嶋社長が運営している乗馬クラブ「霞ヶ浦ライディングファーム」と同敷地内に併設。交雑種(F1)雌1200頭を飼養。7~9カ月齢の素牛を導入し17ヶ月肥育、24~26ヶ月齢で出荷している。2021年7月現在、新たに300頭牛舎建設中、徐々に増頭を進め、肥育頭数は1500頭となる予定。
─── | この度は第12回全国肉牛事業協同組合枝肉共励会(交雑種)にてグランドチャンピオン受賞おめでとうございます!また本日はインタビューのお時間をいただき、ありがとうございます。 はじめに木村場長の経歴と、宮島牧場についてお聞かせいただけますか? |
場長 | よろしくお願いします。私は東京農業大学を卒業後、鹿児島で4年間和牛繁殖農場に所属して人工授精などを学び、16年前の2005年に有限会社宮島牧場へ入社しました。その頃は今と違って業態が去勢肥育で、飼料も配合飼料と稲わらで飼養していたんですよ。入社2年後に畜産部門の運営をバトンタッチされ、同時期に全頭雌肥育へ業態を切り替えて現在に至っています。 |
─── | 今回の共励会に臨むうえで、事前に受賞を予想されていましたか? |
場長 | 事前にはそこまでの自信はなく、何かしらの賞に入れれば、という感じでした。当日送られてきた枝肉の写真を見て、これは受賞を狙えるかなと思いました。 |
─── | そうだったのですね。昨年の第11回の共励会でも準グランドチャンピオンを受賞されていますが、全国肉牛事業協同組合の交雑種共励会への上場は今回で何回目になりますか? |
場長 | この共励会への参加は実は皆勤賞で、今回で12回目の出品です。成績も年々少しずつよくなってきています。 |
─── | 枝肉成績が向上していった最も大きな要因はなんでしょうか? |
場長 | 特に昨年の準グランドチャンピオンを受賞した牛の頃から大きく変化したことのきっかけは、島根県の松永牧場さんを視察させていただいたことです。食品残さ(エコフィード)でサイレージを作製して与えていることに衝撃を受け、2018年頃から宮島牧場でもエコフィードのサイレージ化に取り組んできたことが大きいですね。 |
─── | なるほど。そもそもエコフィードはいつごろから使用されているのでしょうか? |
場長 | 雌肥育に業態を切り替えたタイミングで、社長の意向で特殊飼料やエコフィードの活用に取り組み始めました。当初は飼養コストの削減が主な目的で肉質は求めていませんでしたが、一つ一つの工夫の積み重ねが今の成績につながっていると思っています。地産地消を強く意識しており、地元のかすみがうら市に、恐らく日本一の取扱量を誇るさつまいも専門・加工会社である「株式会社ポテトかいつか」さんがあったことから、さつまいもを飼料として採用しています。さつまいもに含まれるビタミンC、デンプン、食物繊維が、肉の甘味や食味へ良い影響を与えていると考えています。ただ、さつまいもは飼料としての使い方が非常に難しいんです。工夫を重ねて使い方が少しずつ実になってきたのが、昨今の肉質につながっていると思います。また、飼料米もかすみがうら市産、ビール粕・豆腐粕も茨城県産を利用しており、トウモロコシも自家栽培で、原料国産率70%以上と牛からの目線での地産地消を実現しているんですよ。 |
─── | 以前からこだわりを持って取り組んでおられるのですね。新たにエコフィードのサイレージ化に取り組まれて、どのようなところに変化を感じておられますか? |
場長 | そうですね、通常集めてきた生のエコフィードは夏季だと2時間ほどで腐敗してしまいます。そうすると牛が2時間で食べきれる量しか与えられず、エコフィード用に冷蔵庫も導入しましたが、それでも飼槽で腐敗してしまうのが悩みどころでした。腐敗は人の見た目ではわからず、牛が夏バテやビタミン欠乏で食欲不振なのか、飼料が腐敗しているから食べられないのかが判別しづらく、管理が非常に難しい状況でした。それがサイレージ化し腐敗を遅らせることで、牛に充分な量の飼料を与えることが可能になり、夏季の管理が非常にやりやすくなりました。また、エコフィードを10種類使用していますが、生のエコフィードでは給餌前に毎回ブレンドする必要がありましたが、サイレージ化した飼料をベースにすることによってその手間も大きく削減されましたね。しかも良質に発酵した飼料は食い込みも良く、消化吸収もいいです。 |
─── | 現在のエコフィードサイレージ給与方法を教えてください。 |
場長 | 肉用牛ではサイレージ飼料を多給すると肉質には良くないという定説があります。実際、視察した農場さんでは肥育前期はふんだんに給与していましたが、肥育中期には半分、肥育後期には5%ほどしか給与していませんでした。ですが、現在、宮島牧場では肥育後期でもエコフィードサイレージを12kg(約20kg中の60%)は与えています。それでも近年非常にいい品質の牛を出荷できています。その成績を見て、同業者からは「配合飼料給与を増やしたのでしょう?」と言われることも多いです。たしかに肥育後期の配合飼料の量を増やせば、もっと成績が良くなるとは思いますが、生産コスト面のメリットが非常に大きく、これからもエコフィードサイレージを有効に活用すべきと考えています。 |
─── | 肥育素牛はどちらから導入されているのですか? |
場長 | 千葉県の2農場と、宮城県の1農場の計3農場から生産者を限定する形で導入しています。宮島牧場の特別な飼料にいかに早く慣れてくれるかを重要視していて、今回の受賞牛は千葉県の株式会社糸賀牧場さんからの導入牛です。株式会社糸賀牧場さんでは幼少期からサイレージをふんだんに給与しており、導入後も宮島牧場の飼料もすぐに食べてくれるので、この点が導入元を限定しているメリットだと思っています。 |
─── | 今回の受賞牛の印象はいかがでしたか?またいつ頃から、代表牛として意識されていたのでしょうか? |
場長 | 宮島牧場では共励会の出品牛をスタッフ全員の投票で決めているのですが、当時の9名で投票を行ったところ、受賞牛は9票中4票を集めました。ちなみに私は今回の受賞牛には投票していません(笑)。宮島牧場では通常24~26ヵ月齢で出荷していますが、この受賞牛は27ヵ月齢で出品しています。牛舎のシステム上、導入後は同じマスで飼養して牛群もそのまま、移動なしで出荷しますが、今回初めて別棟に移動して共励会出品用として2頭を別飼いし、通常の17か月間より1.5ヶ月ほど長く、18.5ヶ月間肥育しました。別飼いにしてからはすごく風格が出てきたように感じましたね。 |
─── | 代表牛に限らず、飼養管理において重要視されているポイントはどのようなところでしょうか? |
場長 | 「牛にいかにストレスをかけないか」ということにすごく力を入れています。牛がどうやって寝るかや、牛床におがくずを足す割合を気にかけたり、牛舎の臭気が少ないように管理したり、部屋替えや牛群も変えずに飼養しています。牛舎システムも地形を生かした形で、マスに傾斜がついていて、糞や古い敷料が自動的に落ちるシステムになっており、そこも牛のストレスの緩和につながっています。今建設中の新しい牛舎は土地が平地なので、いわゆる通常の牛舎設計になりましたが、これならもし将来的に繁殖も検討したときには有効活用できると考えています。今後もかわらず牛ファーストでやっていきたいと思っています。 |
─── | そして何より、スタッフ間のコミュニケーションを最も重要視していて、そこが昨年と今年で最も違う点です。私が目指すシステムやスタッフの調和が全員に浸透してきたことがすごく大きいと感じています。選畜を投票制にしていることもそれぞれのスタッフの意識を高めるためです。現在スタッフは11名ですが、持ち場が各々違うので、そこが連携を取れているかがすごく大事。お互いがリスペクトしあって、1人+1人が2.5人の力になるくらいが、やはりいい仕事ができると思っています。鹿児島時代に和牛繁殖農家さんの講演を聞いた時に、講師の方が「いい牛を作る秘訣は夫婦仲がいいこと!」というのを聞いて当時はずっこけましたが(笑)、今になってすごく心に染みますね。 |
─── | ビオスリーの使用を始めたきっかけについて、教えていただけますか? |
場長 | 昨年の夏場に出荷した牛で、枝肉のムレ肉、異臭が多発してしまったことがありました。その対策として、肉質について情報があったビオスリーに着目し、アクティ株式会社さんと東亜の担当へ問い合わせて、試験的に使用を開始することにしました。 |
─── | 現在のビオスリーのプログラムを教えてください。 |
場長 | 仕上げの飼料へ20~30g/日/頭をブレンドして肥育牛全頭へ与えています。 |
─── | なるほど。肉質の維持の他にも、期待されていることはございますか? |
場長 | 以前より宮島牧場では、肉質はいいけど枝肉重量が小さいというのが改善テーマのひとつになっていて、枝肉重量の上乗せを期待しています。 |
─── | 実際にビオスリーをお使いいただいて、実感はいかがですか? |
場長 | 実際に増体が改善していますし、当初の目的だったムレ肉や異臭も今年の春以降でておらず、枝肉の品質維持に役立っていますよ。 |
─── | そのように評価いただき、嬉しい限りです。ありがとうございます。ビオスリー以外で、使用されている添加剤等があれば教えていただけますか? |
場長 | 育成の方で納豆菌を昔から使用しています。月1回、ビタミン剤・強肝剤も使用していますが、こちらは特に暑熱時期を重視しています。もちろんビオスリーも重要視していますよ(笑)。 |
─── | 時期によって添加剤も使い分けておられるのですね。今後もビオスリーを使用してよかった、と思い続けていただけるよう、努力していきたいと思います。 |
─── | 宮島牧場としてオリジナルブランド「霞浦牛」を生産するうえで意識されているポイントは何でしょうか? |
場長 | 農場全体の出荷成績の底上げです。ブランドの品質を一定に保つためにも特に2等級は出ないようにしたいと考えています。地元スーパーでも採用されていますが、入荷するとすぐに売れてしまい、欠品が起こっていると連絡をいただいています。地産地消にこだわり、安心安全かつ安定した「霞浦牛」を提供していきたいと思っています。 |
─── | 今後開催される共励会に向けての意気込みを教えてください。 |
場長 | ぜひ連覇を目指したいなぁ。共励会には少々早いのですが、今のうちに予備選畜をしておこうかと考えています。スタッフにも毎週の出荷の際に共励会のようにゲーム感覚で牛を見てもらい、見る目を養っています。 |
─── | 木村場長は、カフェレストラン「K'S VILLAGE」を運営して宮島牧場ブランド「霞浦牛」を食材としたメニューを提供していますが、出店の経緯と現状、今後の展望について教えてください。 |
場長 | 弟(木村進様)が以前より東京で飲食店「どんなもんじゃ」を経営しており、そちらで宮島牧場の牛肉を取り扱っていました。次の出店を検討していたことも相まって、生産地である茨城県かすみがうら市で地産地消を売りにした霞浦牛を専門に扱うお店として2020年2月にオープンしました。コロナ禍の中での出店となりましたが、おかげさまで非常に好評をいただいております。また今回の受賞後、ラジオや雑誌、地方TVなどの取材も受けています。味には自信があるので、とにかく認知度が大事ですね。今後は、霞浦牛の販売ロットをもっと増やし、ゆくゆくはレストランで霞浦牛を1頭買いして希少部位も提供したいですね。 |
─── | 宮島牧場の今後の展望について教えてください。 |
場長 | 現在、茨城県産のほしいも人気の高まりから県産のさつまいもが足りなくなっているほどで、飼料としてのさつまいもの供給もやや不安定になっていますが、それに対応する飼料のバランスを構築していきます。これから増頭が始まるのですが、スタッフとのコミュニケーションとチームワークで、皆で常に何が正しいのかを検証して、更に品質を高めていきたいです。 |
─── | 最後に「霞浦牛」についてPRをお願いします! |
場長 | 霞浦牛は2020年2月に生まれた自社ブランド牛です。牛からの目線での地産地消をモットーに、原料国産率70%のオリジナル飼料で安心・安全な牛肉を提供していきます。自社のオリジナルブランドの良さを活かし、地域の活性と黒毛和牛にも負けない甘味のある美味しい牛肉を皆様にぜひ食べていただきたいです。 |
─── | 木村場長からすばらしい意気込みと今後の展望を伺えました。本日はお忙しい中、長時間のインタビューにお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。 |