セミナー講演レポート

「腸活で健康力向上 プロバイオティクスの活用 -生菌剤で経営力アップ-」

講演者紹介

  ジャパンカーフクリニック 院長 矢田谷健 先生

1974年に酪農学園大学獣医学科卒業後、栃木県職員となり家畜保健衛生所に勤務。1978年から子牛の衛生指導・各種検査を担当し、特に牛サルモネラ感染症の対策を多方面から検討。その後、動物薬事、牧野衛生などを担当した後、1995年に肥育牛専門獣医師として開業。現在は子牛~肥育牛の治療および衛生を主体としたコンサルタントとして活躍中。

良好な栄養状態の重要性について

 家畜にとって栄養不良は重大な問題であり、コルチゾン分泌増加、成長ホルモン分泌低下、免疫抵抗性の低下、細胞分化・増殖の停滞を招き、肺炎・下痢、成長不良などの原因となる。良好な栄養状態はヒトにおいても、免疫機能を最大限に発揮するために最も大切な要素であると一般的に考えられている。栄養の消化と吸収について、餌として食べたものが巨大分子から小分子へと分解(消化)され、体内に取り込まれて(吸収)血液やリンパ液で移送されるという流れになる。昔からよく言われ知られている消化は、消化酵素による糖類から二糖類、タンパク質からオリゴペプチドといった、第一段階の消化のことであった。しかし最近では腸の上皮細胞膜表面で行われる、二糖類から単糖、オリゴペプチドからアミノ酸へという第二段階の消化についても注目されている。腸の細胞表面の膜の状態が健全に保たれることが、この点において、良好な栄養状態を維持するうえで非常に重要であるということになる。

腸内細菌とプロバイオティクスについて

 腸内の細菌は1000種、100兆個以上とも言われ、善玉菌、悪玉菌、日和見菌、未分類菌などと呼ばれる様々な細菌が、腸内細菌叢を形成している。細菌自身が必要とする以上のビタミン類を合成分泌する、微生物の付着部位や増殖に必要な栄養分を競合して奪う、本来そこには定着していない微生物の増殖を抑制したり殺したりする物質を産生して他の細菌等と拮抗する、特定の組織(免疫組織)の発達を刺激する、交差反応性のある抗体の産生を促進する…といった、多様な働きを担っている。腸内細菌のうち、宿主に有益な菌は善玉菌と呼ばれる。

 プロバイオティクスとは、摂取することで宿主に有益な作用をもたらす、生きた微生物を摂取することである。乳酸菌やビフィズス菌、枯草菌などがよく知られ、十分な量の菌を、継続的に摂取することで腸内細菌叢のバランスを整えるものである。善玉菌を体外から増やす手段としてプロバイオティクスがあり、体内から増やす手段としてプレバイオティクスがある。両方とも有効だが、プレバイオティクスは善玉菌以外の菌にとっても餌になるという考えから、プロバイオティクスをより推奨している。腸内細菌叢のバランスが崩れている状態では、病原菌も侵入しやすくなり、下痢などの症状も起こりやすくなる。腸内細菌叢のバランスを崩す主な要因として、離乳や飼料変更、環境ストレス、薬品(抗菌剤など)投与などが挙げられる。そのようなリスクが高まるタイミングでは、特に腸内細菌叢のバランスを整えて対策をしていきたい。飼育ステージごとに、目的意識をもって効果的にプロバイオティクスを活用するべきである。

治療の時代から予防の時代へ。プロバイオティクスの活用、選択について

 子牛におけるプロバイオティクスの給与試験において増体率などを確認したところ、プロバイオティクスを給与しない健康子牛(対照群)と、プロバイオティクスを給与した下痢子牛では、同等の増体率となった。一方でプロバイオティクスを給与した健康子牛では顕著に増体率の良い結果が出ており、病気になってから治療するよりも、予防的にプロバイオティクスを活用することが経営上有益であると示している。

 哺乳子牛に牛5種混合生ワクチン2回投与、期間中に生菌剤を投与した試験では、投与群で抗体価の上昇が認められた。このようなワクチンとの併用についても、新たな可能性としてプロバイオティクスに期待していきたい。

 様々な種類がある動物用プロバイオティクス製品選択のポイントは、費用対効果が優れていること、嗜好性が高いこと、作業性が容易であることなどが挙げられる。農場により使用環境や要求が異なると思われるので、まずは実際に比較試用してみることを推奨したい。優れたプロバイオティクスを活用することで、経営力アップを実現してください。